SL「かわね」号の時間、「のぞみ」の時間

こどもが好きなSLに乗りに、1泊2日で静岡まで行って来た。金谷という駅が静岡駅から浜松方面に30分ほど行ったところにあり、そこを起点とする大井川鉄道がお目当てだ。金谷から千頭までの約65キロを営業している会社である。文字通り大井川に沿って走る。常時SLが走っている路線というのは日本ではもう数えるぐらいしかない。

11時45分発のC11 227というのが牽引する列車に乗ったが、客車までクラシックで冷房はない。自分が10代のころはずいぶんと走っていた狭いボックスタイプの4人がけである。運悪く、うちは子供連れの3人、向かいの夫婦も子供を2人連れており4人。「これはどう座るんだい!」という感じであったが、向かいの夫婦はさすがに気を使ったようで夫婦がそれぞれ子供1人の面倒を別のボックス席で見るという分業体制に出た。全席予約制で満席だったが、若干の空きがあったのだ。ということで何とか座れ、胸をなで下ろす。

客車は1942年に作られたものであることが車内の説明にあり、「当時の旅の雰囲気をお楽しみください」と横に書いてあった。「当時の旅の雰囲気」として、私が印象に残ったのは、2つ。車掌が非常に長い時間しゃべっているということ。これは近時のSLが観光列車化したせいかもしれないが、かなり詳細に地元のガイドの役割を果たしていた。当時の旅というのはそう頻繁に行われているはずもなく、本当に当時は車掌がこんな感じだったのかも知れない。もう1点は、線路沿いの人たちの多くが汽車に向かって手を振っていたこと。

千頭から寸又峡温泉までバスで行き、そこで1泊。帰りはほとんどまっすぐ帰ってきたが、9時に向こうを出て、家に帰り着いたのが17時少し前だった。1970年代の旅とはこんなペースだったのだろう、と思った。

  • 寸又峡温泉から千頭までがバスで40分
  • 千頭駅での待ち時間20分(バスを1本遅らすとこれが1時間20分。初日はこの待ち時間を体験)
  • 千頭から金谷まで1時間20分
  • 金谷での待ち時間20分
  • 金谷から静岡まで30分
  • 静岡で昼食
  • 静岡から品川までこだまで1時間20分
  • 品川から自宅まで40分

千頭から金谷までは単線なので、いくつかの駅ですれ違いの列車を待つ。ここは実は今回の旅のハイライトで、下泉という駅では対向のSLのビデオと写真が撮れる。行きはSLそのものには乗っているのだが、その走っている姿を見られるわけではない。どちらかというと煙い車内を体感するという企画だ。で、帰りの下泉では後からくるSLを蒸気の音も聞きながら、子供の手を引いて撮影した。あまりに撮影に熱中しすぎて、それまで乗っていた列車の発車に乗り遅れ、車内にいた妻が開扉をワンマンの運転手に要請する始末であった(ことなきを得た)。

というわけで、やたらと待ち時間を含めて時間がかかるのが、大井川鉄道。また新幹線もこだまに乗ると、ほぼ毎駅、ひかりやらのぞみに抜かれる。

結局大動脈の上に乗っかっている人たちと、そうでない人との間にどんどん流れる時間のスピードに差がついているのだということを感じたのが今回の旅。

光のスピードで通信できるようになった僕らは果たして、幸せになったのだろうか。とんぼやあげはがまだまだ生息している寸又峡の森をこどもと歩いた様子を思い返しながら、そんなことを考えた。