コミュニティサイトを題材に発表

研究対象としているサイトのことを上海の学会で発表した。論文を投稿するときにどのトラックに投稿するかを選ぶのだが、私はe-commerceではなく、decision support systemというところに投稿した。というのもこのサイトは明らかに個人の購買の意思決定を支援しているからだ。

ところが、というか当たり前なのだが、まわりの発表はSCMなどの業務支援アプリケーションの話ばかりだった。晩のBanketでシンガポールで教えている韓国人の助教授と話したが、ネット上に自発的に発信された情報が蓄積され、それをユーザーが共有財産的に利用するというのは日本と韓国に特有な現象だそうだ。その彼はVirtual Communityも専門と言っていたが、よいフィールドワークができる対象がシンガポールにはないと嘆いていた。

日本の友人が「ネットワークリアリティ」という本を薦めてくれたので、ここら辺の考察があるこの本は読んでみよう。ということで私の研究は環太平洋的にかなりユニークであるようだ。

あと、気になったのはセッションでの質問の多くが研究方法論、計量するための変数の定義に集中していたことだ。私は自分のセッションでは2回のサイトのユーザーアンケートの結果を話したのだが、それに対して「ユーザーが安定しないサイトにおいて2度のアンケートを行う意味がよくわからない。2度目の調査結果はなんら理論に対して貢献してないではないか」というものだった。私は「サイトの変化の様子を記述することが主目的だから2回の調査を行ったのだ」といったが、記述する、描写する、詳述するというタイプの研究が許されなくなりつつある環境を実感した。

たとえば、Strategy and Organization issuesというトラックではITの投資対効果に関する論文が目白押しだったが、質問は「IT投資をどうやってメジャーするのか?それは金額だけなのか?」「効果にはタンジブルなものとインタンジブルなものがある」「それらをそれぞれどう計量するのか?」「Rスクエアはいくつだ?」という沼上さんの「行為の経営学」に書かれているような典型的な瑣末な質問ばかりだった。

ネットワーク・コミュニティは新しい組織だからまずは記述してみましょうよ。そしてそれをサステイナブルにまわすモデルを考えましょうよ。というのが私の問題意識。そもそも組織論だって、むかしはどのような原理原則で動いているかをシングルケースで記述するところから始まった。それがいつの間にか組織内の人間の行為はブラックボックス化され、インプットとアウトプットのみをひたすらサンプル数を多くして計量するということが80年代のアメリカで始まったのだ。