行きつけの店

この年になって行きつけの店というものができた。通算で10回以上訪問している店はたぶんここ以外にも数軒あるのだが、こういうのを行きつけの店というのだろうという店ができた。初回は親友の妻に紹介されていったのだが、これが2002年年明けだったと思う。

名前は伏せておくが、場所は池尻大橋だ。駅から3分。しかも帰りはタクシーで10分で帰れる。

私がこの店に惹かれるのは、まずはその店のママ(あるいは女将)の存在だ。明朗快活、記憶力抜群、グラマーと3拍子揃って、私より3才ほど若い。

子育てしながら共働きをしていると、平日の飲み会なんてものはだんだんとゼロに近くなってくる。それでもやっぱり飲みたいときはある。話し相手も欲しい。そんな時はここに行く。するとママがカウンター越しに相手をしてくれる。前回来店時の話題もしっかり覚えていてくれる。

そんな男女は老若を問わずいる。そんな輩が3人カウンターに並ぶこともある。すると今度はその3人が顔見知りでなくてもお互いの気持ちを吐露し始める。ママを触媒にしながら3人がコミュニケーションを始める。九州女を妻に持つ男の悩みについて語り合った時は最高だった。

またこの店の客層も魅力的。私は所詮は会社員だが、個人の名前で食っているところが1/3ぐらいはある。そんな個人の名前で食っている人がこの店には多い。ミュージシャン、俳優、証券アナリスト、水中カメラマン、設計士など。日々の緊張を和らげる目的で来店する彼らはお互いの苦労を共有し、今後の健闘を誓い店から帰っていく。

料理はイタリアンが基本だ。イタリアンレストランで4年ほど修行していた彼女の料理は家庭的で野菜たっぷり。またパスタはイタリアで最も売れているバリラ社のOro(黄金)という最上級のものが使われている。ペンネのゆで具合は最高だ。しかもママは熊本出身なのだが、実家から送られてくる。馬刺がうまい。たてがみも食える。

また、BGMが80年代アメリカンPOPSというのも泣かせる。音楽業界の人が多いせいで、いつのまにかものすごい量のCDが店には貯まった。それがいつの間にかiPodに納められ、自分の青春時代の懐メロが店にはかかっている。

あと、何と言っても、ここには私の高校の友人がしばしばやってくる。私の高校は典型的な進学校で東大→官僚とかNTTとか東京電力とかそういう就職をする人間の比率が圧倒的に多いが、前に書いたようにここに来るのはそういうタイプの仕事をしていない奴らだ。ふらっと行って、彼らと2ヶ月に一度くらい遭遇し、近況を話すのは励みになる。

そんな店が私の行きつけの店である。