アーキネットのコーポラティブハウス

さて,本日はささやかなバイラル・マーケティングというか,コミュニティ・アライアンスの実験をしてみたいと思います.


冒頭に背景を書きます.今,僕自身がコーポラティブハウスという方式で,アーキネットという会社の支援を受けながら家を建てようとしている.コーポラティブハウスというのは「その土地に家を建てたい」という世帯が一定数集まらないとプロジェクトとして成立しないのだが,僕が申し込んでいる物件にはあといくつかの世帯の参加が必要である.誰か参加してくれ.こういうことです.


というわけで,このエントリーには僕個人の思い入れが入ってしまうでしょう.そのことは割り引いて読む必要があります.この実験を自分のBlogでやるかはそれなりに迷ったのですが,個別にメールで家探しをしていそうな友人に問い合わせた結果,参加者の増加が達成されなかったため,背景を公開することでの実験遂行に踏み切りました.


さて,コーポラティブハウスという方式ですが,すでに書きましたが,その建物に住む人たちが協同組合をつくり,土地を購入し,建物を設計し,建物を建てるというものです.とはいえ建物の設計は設計士に任せますし,建物の建築は工務店などに任せます.また土地の選定はアーキネットなどのコーポラティブハウス方式支援(コーディネート)会社がやってくれます.コーポラティブハウス方式のメリットについては後述する会社のサイトを参照してみてください.あえてここに書くものとしては,営業コストにではなく建物にお金をかけているという点.そしてこちらの方が重要だと思いますが,作業のプロセスをすべて開示してくれるという点だと思います.


アーキネットという会社は実は土地の選定だけではなくて,その購入業務の代行や,設計事務所の選定や,工務店の選定なども行ってくれるワンストップのサービスを提供していて,そこに付加価値をつけています.こういう会社はアーキネット以外にも存在します.おそらく最も有名なのは都市デザインシステムという会社です.また僕がこの方式で家を建てようと考え始めてから調べた中では,ゼロワンオフィスという会社もありました.


archinet コーポラティブハウス
UDS株式会社 - UDS Ltd.| まちづくりにつながる「事業企画」「建築設計」「店舗運営」
自由が丘の設計事務所ゼロワンオフィス


組織論的に見るとこの3社はそれぞれ特徴的で面白いです.ちなみにこの3社については,ある物件の説明を聞きにちゃんとそれぞれのオフィスまで僕は出向いています.


まず都市デザインシステムですが,社長が元リクルートコスモスです.そのせいかはわかりませんが,効率性指向と調達力・販売力の強さが特徴と感じました.まずは手がけるプロジェクト数から土地の調達力が相対的に高いと思われます.また手がけている物件には世帯数は10世帯以上のものも多く,地下住戸も作ることも多く,スケールメリットを活かします.したがって販売価格はやや安めになります.スケルトンという外側の設計は社員が担当することが多いようです.これはコーポラティブハウスという方式が少しずつ一般化するなかで,調達力や販売力のみならず設計力による差別化を図る必要が出てきたからだろうと僕は分析しています.また多少売れ残りの物件があってもプロジェクトの開始が決定され,残った物件を後から売るということもあるようです.物件の案内パンフも比較的コストをかけていて,チラシ広告も活用しています.それでも新聞広告やテレビ広告などに比べればはるかに控えめだという点は強調しておく必要があるでしょう.コーポラティブハウスの中でも,コストパフォーマンスを重視する人にはこの会社の手がけるものが合っていると思います.


次にゼロワンオフィスですが,ここは元来設計事務所です.設計事務所としての特色を出すためにコーポラティブハウスという方式に注力している会社です.自分たちの手がけたコーポラティブハウスを事務所にしているような小さな会社なのですが,ここの良いところは設計についての対応がスピーディだということです.ある物件の話を聞いて我が家のニーズに合わせて設計図を再度起こしてもらったのですが,対応が早かったです.設計機能の内部化は都市デザインの例もあり,設計力そのものでの差別化は難しくなってきているのかも知れませんが,スピードは速いです.またメールでのやりとりには温かみがあります.地域を絞っている人,家を建てるタイミングをあまり気にしない人,そしてハイタッチなサービスを指向する人にはこの会社は合っていると思います.象徴的な話を書いておくと,ここのコーディネーター(設計士ではない)は自分がコーポラティブハウスで育ち,非常にそのコミュニティが好きだったため,コーポラティブハウスを手がけているゼロワンオフィスに入り,コーディネート業務をしているとのことでした.


最後にアーキネットです.ここは社長が元マッキンゼーです.なのでかどうかはわかりませんが,組織の作り方がうまいです.名前のとおり,設計士の外部ネットワークが彼らの特徴です.北山恒とか,その弟子とか,安藤忠雄の弟子とか,磯崎新の弟子とか,そうそうたるメンバーが揃っています.ちょっとスノッブという感じがいかにもマッキンゼーですが,オフィスは質素です.我が家も当初は「そこまで設計に凝る必要はないよね」と思っていたのですが,こういった優秀な設計士は顧客のニーズを満たしながら形に落とすことのプロなので,アーキネットの人と話すうちに,内装設計についても予算を含めたこちらのニーズがしっかり伝えられれば問題ないと判断しました.手がける物件の世帯数には3〜7世帯ぐらいのものが多く,スケールメリットがそれほど働かないので,そこそこのマンション並みの値段になってしまいますが,それでも土地を買って戸建てを建てるよりは幾分安いと思われます(いわゆるペンシルハウスは除く).設計,デザインに興味のある人にこの会社は合っていると思います.


さて,3社ほぼ均等の文字数で書いてきましたが,なぜ僕がアーキネットを選んだかということを最後に書いておく必要があるでしょう(ちなみに意思決定は夫婦でしましたよ).


ひとつには,アーキネットと相性の良い人のタイプとして書いたように,僕が設計(デザイン)や建築に興味があるというです.実は大学の学部を選ぶときに建築学科にするか,社会心理学科にするか迷ったのです.結局,計数能力の低さと,極端な3Dでの表現能力の弱さ(絵が下手)から前者をあきらめたのですが,建物を見るのは好きです.また街歩きも好きです.その後,広告の世界に進むのですが,これも顧客のニーズを満たしながらアウトプットを作るという設計作業という点では一緒です(コピーライターにもなれなかったけどさ).たとえばWebサイトのコンセプトに対してサイトデザイン(導線という意味とユーザーインターフェースという意味)が優れていると今でも興奮します.これがはてなを使っているの理由のひとつだったりします.


もうひとつはやはりアーキネットのネットワーク組織が気に入ったということなのでしょう.これは僕が6年前に書いた本のコンセプトであるコミュニティ・アライアンスの実践だからです(これもはてなを使っている理由になります).建築事務所という知のコミュニティとアライアンスしていく組織をアーキネットはかれこれ10年以上作っています.察するに今井賢一さんと金子郁容さんの「ネットワーク組織論」をアーキネットの社長は読んだのでしょう.彼とはまだ面識がないのですが,どのぐらいの企業規模にしようとしているのか,そしてガバナンスをその過程でどのように変えていくのかという点はぜひそのうち話を聞いてみたいと思っています.また蛇足ですが,そのようなコンセプトの会社に集ってきた社員の感じがよかったことも挙げておきましょう.


さてさて,ずいぶんと長くなりましたが,コーポラティブハウス市場の堅調な成長と僕の家がプロジェクトとして成立することを祈りつつこのエントリーを閉じたいと思います.


追伸:えー,とたんに下世話モードになりますが,もしこのエントリーが参考になったならば,ブックマークするなり,「コーポラティブハウスって知っている?」とか「アーキネットって知っている?」と友達との会話で話題にしてくださいね.ではでは.