情報管理コスト低下のデメリットとメリット

指導教官の1人と論文について話をしてきた。その会話の中で改めて確認できたのは、僕がテーマとしている「消費者による発信情報の収益化」が、少なくとも短期的には、消費者発信型サイトの運営者にとって真剣に取り組むべきテーマにならなくなってきたということだ。

4ヶ月前に彼と話をしたときは、僕はまだサイト運営者の現場のコスト感覚がなくて、「exponentialに増加する消費者による発信情報の管理コスト(ハード、ソフト、回線と発言チェックや削除のための人件費)はlinearに伸びる広告収入だけではまかなえず、消費者による発信情報そのものを何らかのパッケージ化で収益化して、会社として事業を多角化しないといけない」という仮説を持っていた。

ところが、僕がメインとしているフィールドで収支のシミュレーションをしてみたところ、管理コストのここ1年半ほどの値下がりが寄与して、広告収入だけでもぜんぜんペイするということが判明した。これは微妙な数字ではなくて、確実に黒字が確保できるという数字だった。そのサイトはカテゴリーキラーとも言えるサイトなので、バナー的な広告の単価もけっこう高いが、そのようなタイプのサイトであれば、おそらく月間700〜800万PVがあれば十分だ。

一方、はてななどのBlogサイトのように、データ量が非常に多く、かつあるカテゴリーに特化していなくても、アドセンスという新しいメディアと掲出技術が生まれたことで、管理コストを大幅に上回る収入が確保できるようになってきた(だって、そうでないと画像ファイルを管理するフォトライフはやらないよね)。

少し乱暴な物言いかもしれないが、40万円もするようなサーバーマシンではなくて、4〜7万円程度のコモディティマシンを活用したシステム構成にすれば、月間100〜200万PVというようなサイトは別として、月間1000PVあるサイトであれば、ペイする時代になったということだ。

そうすると、これまでは広告事業だけではペイしないからという理由で、消費者発信情報の収益化に真剣に取り組まざるを得なかった事業者の事業多角化モティベーションは当面下がる。

これはこのような新しいタイプの情報の流通がwebサイトの世界だけにとどまる可能性が高くなることを意味する。このような情報をメーカーに組織的に商品開発に活用してもらうとか、小売店仕入商品に反映させてもらうとか、陳列法に反映させてもらうとか、サプライチェーンの中にこの新しい情報をビルドインしていくという積極的な働きかけのスピードが鈍る。

ただ、逆にコスト的に余力が出た分、ヒト・モノ・金をかけて、ネットワーク時代の新しい価値のキャッシュ化追求を、次代を見据えた経営者が本気で取り組む可能性が広がったとも言える。Googleあたりは当然そんな議論をしているのだろうし、スケールは小さいが、あるカテゴリーにおいてそこのところを本気で考えている経営者は日本にも少数だが存在する。

まあ、そんな話もしながら、少し論文の枠組みについて前進したわけだ。

書きながら、思いついたのだが、「ネットで儲けろ」ネットで儲けろを今頃読み返すのも面白いかもしれない。